可愛い人
執政と財務の官との協議を終えて国王の執務室へ行くと、部屋の主——父エレスサールはローテーブルでいそいそと酒肴のチーズを切り分けていた。そんな様子にエルダリオンの頬は、つい緩んでしまう。
「終わったか?」
チーズを皿に盛りながら、父が振り返った。エルダリオンは慌てて表情を引き締め、頷いた。
「どうだった?」
父が協議の成果を訊く。エルダリオンは軽く肩を竦めて答えた。
「執政閣下のペースで無事終了」
「お前の意見は?」
「俺は執政閣下の指示どおり、しゃべっただけ」
「また、お前はそういう言い方を……」
父の眉間に小さくしわが寄る。エルダリオンは視線を逸らし、殊更どうでもいいという口調を強めて言った。
「本当のことなんだから仕方がない」
「だからってな……」
父の薄い唇がゆがむ。その後に小言が続かぬよう、エルダリオンは後ろ手に持っていた葡萄酒の瓶をテーブルにトンと置いた。南イシリアン産の白葡萄酒だ。
「はい。その切れ者の執政閣下からの差し入れ」
「あの男は本当にそつがないな」
不満そうだった父の顔が一気に綻んだ。苦笑まじりであっても、青灰色の目に浮かぶ光はやさしい。そのやわらかな笑みは葡萄酒がもたらしたものか、はたまた王朝を興して以来の忠臣の心遣いによるものか……。
——ま、両方かな。
エルダリオンは小さく肩を竦め、マントを脱ぐと、葡萄酒の瓶の栓を開けにかかった。
昨年までの数年間、エルダリオンはアルノールで過ごしていた。はじめは野伏の見習い、その後は兵士として勤めた。ミナス・ティリスに戻って以降は、王と執政であるファラミアの補佐的な文官として働いている。
王族として公式な行事に出ることはあるが、それ以外では表舞台に立つことのない裏方だ。予想外に目立たず過ごすことができ、エルダリオンは気に入っていた。おかげで執務後、夜の街へ出かけても身元がバレて大騒ぎ、なんてことにもなっていない。
——そういうところばかり陛下の真似をなさって……。
当然、執政や、彼の子息で総大将のエルボロンはいい顔をしていない。だが、エルダリオンの夜遊びの同行者は、他ならぬ執政の孫であり、エルボロンの息子のバラヒアなのだ。そうと知りつつ、彼らがバラヒアをミナス・ティリスから遠ざけていないところを見ると、苦情をこぼしながらも見逃してくれているのかもしれない。
見逃さなかったというか、一番不満げな顔をしたのは、なんと父のエレスサールだった。曰く、
——バラヒアとは出かけるのに、わたしには声もかけてくれないのか。
そこが不満かと言うべきか、大国の王がいったい何に拗ねているのかと言うか……、まだまだ父を知らないと思ったエルダリオンだった。
——じゃあ、声をかけたら、第七環状区からの抜け道、教えてくれる?
エルダリオンは城がある最上層から抜け出る方法を知らない。バラヒアと出かける際は、なんとか用事をつくって第六環状区まで下りている。
——それは駄目だ。
——それじゃあ、父上だけ抜け出せて、俺は抜け出せないじゃないか。
——お前は第六環状区へ堂々と出ていけるだろう。そういうふうに官と取り決めたんだから。
父の言うとおり、現在のエルダリオンの行動に、以前ほどの規制はない。アルノールで兵士をしていた実績を盾に取って、父が諸官を説得した——と言えば聞こえがいいが、ファラミアに言わせると「脅したのですよ」ということになるらしい。
——あまり束縛すると、すぐに余所の土地へ出て行きたいと言い出す。以前と違って、野伏や兵士をしていた実績がある今は、城を出ても生きていけるだけの術を身に付けている。下手をすると出奔されかねない。王都に長く居させたいなら、第六環状区までは融通を利かせてやれ——だそうです。
王太子に出奔されたくなかったら、ちょっと出歩くぐらいは目を瞑ってやれというわけだ。
——俺って、そんな危なっかしい王太子になってるわけ?
行動規制が緩くなったことは歓迎したいが、“出奔するかもしれない”と心配されるまでになっているのは複雑な気分だった。これでも以前は「素直で聞き分けがいい」と言われていたのだから。
——まあ、五年近くお戻りになりませんでしたからね。
執政はにこやかな顔でしっかりと“自業自得”の釘を刺してくれた。
——それに、お父上がお父上であらせられますから。
ようするに、エルダリオンの自業自得と、父エレスサールの脱走癖の相乗効果ということらしい。
——その“お父上”のことなんだけどさ……。
エルダリオンは父が夜遊びに声をかけろと言ったことを話した。二人一緒に出かけられるのなら、そんなうれしいことはない。だが、やった後が怖い。ならば、正直に打ち明けたほうがいい。容赦のない物言いをする執政だが、正直に要望を話すと、意外なことに妥協案を提示してくれる。
——陛下も懲りない方ですねぇ。
苦笑交じりに感想を述べた後、執政はひとつの打開策を授けてくれた。
——お二人で夜間外出されては確かに困ります。ですが、今回の場合、陛下はお出かけになりたいというより、殿下と御酒を召し上がりたいのだと思います。ですから、執務の後、お部屋で召し上がってはいかがでしょう。
付き合いの長い執政の読みは当たっていたようで、エルダリオンが葡萄酒の瓶を提げて訪ねてみたところ、父は上機嫌で迎えてくれた。それ以後、しばしば二人で飲んでいる。
一人で飲むのが淋しいという人ではないだろうに、エルダリオンが付き合うことを、なぜそんなに喜ぶのかと思ったら、
——あのファラミアでさえ、人並みに息子と酒を酌み交わしているのに、わたしができないのはおかしいじゃないか。
どうやら“息子と酌み交わす”というのをしたかったらしい。まあ、なんというか、
——可愛い人である。
アルノールとゴンドールの二国を統べる王なのだが、今エルダリオンの目の前で葡萄酒と酒肴のチーズに相好を崩している姿には、そんな貫禄も威厳もない。愛らしい——だなんて思ってしまうのは息子の欲目だろうか。
「ところで、さっきの話だが——」
チーズをつまみながら、父が切り出した。
「ファラミアのペースで無事終了したなら、財務はサルバドの整備に予算を出すと頷いたわけか」
そうだとエルダリオンは頷いた。サルバドはエリアドールの灰色川と緑道が交差する地点だ。第三紀の中頃まで町があったそうだが、大洪水に見舞われ廃墟になったという。ただし、その後も浅瀬があるため、渡河地点として人馬の往来はあったらしい。
そんな場所だから、アルノールとゴンドールを行き来する人が増えると、住み着く者が出てきた。やがて、集落ができ、それは村となり、小さな町になった。
だが、元が廃墟だ。柱や壁が崩れることしばしばで、死傷者も出ている。これからも住人は増え、町の規模も大きくなるだろうが、それには整備が必要不可欠だろう。でないと、大惨事が起きる恐れがある。
五年程アルノールで過ごしたエルダリオンは、サルバドにも立ち寄っている。往路と帰路は通り過ぎただけだったが、野伏の見習いをしていたときに一度、ゆっくり見てまわる機会があった。今日、協議に同席したのも、その体験があるからだった。
現地の様子を目にしているエルダリオンから話をしてほしいと、ファラミアが同席を望んだのだ。現地を歩いたという事実と、王太子の肩書き——この二つの強みを最大限に生かそうという執政閣下の戦術である。
エルダリオンの役目は記憶と書き付けを頼りに報告書をつくることであり、協議の場でファラミアに話を振られる度、目撃談を語ることだった。「王太子殿下が実際にご覧になったことですよ。検討の価値はあるでしょう」と脅す……もとい、いい返事を引き出すのはファラミアの仕事であり、切れ者の執政閣下は見事にその役目を果たした。とはいえ、財務も無条件で頷いたわけではない。
「金額を算出する前に調査をするとは言っていたけどね」
言った途端、父が“わかった”という顔をした。
「なんだ、それが不機嫌の理由か」
「何が?」
わけのわからない指摘をされて、エルダリオンは眉を顰めた。すると、父は整理するように言った。
「今回の件、お前は整備計画の必要があると証言したわけだ」
まあ、そうなる。
「ファラミアが利用した点は否めないが、お前は嘘は言っていない。それなのに、財務は調査すると言った。疑われたようで、それが気に入らないのかと……」
「はずれ」
エルダリオンは父の言葉を遮った。そんなことで不機嫌になってどうするのだ。まったく……。
確かに、自分は父の前では表情を引き締めるよう意識している。でないと頬が緩みまくって、締まりがなくなりそうな恐怖を感じるからだ。親が子供を見てニコニコしているならともかく、息子が実の父親を見つめてニマニマしているのは、常識で考えたら気持ち悪いだけだろう。
自分の趣味嗜好は母親譲りかもしれないと思うようになったエルダリオンにとって、父との距離の取り方は悩みどころなのである。なにしろ、母アルウェンはエルフに用意された西方の地へ渡るより、父と共に在ることを選んだ。それぐらい、エレスサールという人間は母の好みのど真ん中だったわけだ。
まあ、エルフの選択は他と違えても、とんでもなく変わったエルフで済むだろうが、人の道は……、
——踏み外したくない……。
と思うエルダリオンだった。魅力の溢れ過ぎる肉親は、ときに不要な悩みを生じさせるものである。
そんな事情はとても話せないから、機嫌の悪そうな顔だという指摘は甘んじて受けようと思う。だからと言って、官吏が話の裏付け調査をするのが気に入らないだなんて、そんな子供染みた感情を、不機嫌の理由付けにされるのは御免だった。何より、自分がそんな狭小な人間だと、父に見られたことがショックだった。
「それに不機嫌でもない。だから二つともはずれ」
腹が立ったので少し冷たく言ってやったが、父は気に留めた様子もなく「そうか?」と首を傾げた。
「でも、なんだかムッとしているぞ」
隣から伸びてきた指が、エルダリオンの頬をつまむ。
「ちょっと、止めろって……」
どうしてこう、図体のでかくなった息子に対しても幼い子供を構うように接するのか……。それとも、父の感性が子供なのだろうか。鷹揚な性格ではあるが、いたずら好きな面があることと言い、時にじゃれるように接するところと言い……いや、そういうところも魅力的なんだけど……ではなくて……。エルダリオンは深呼吸し、ズレていく思考を追い払った。
「財務が調査を出すことについては、なんとも思ってない」
改めて父の思い違いを否定する。それから付け足すように言った。
「ただ、話しているうちにアルノールのことを思い出したから、調査に行くという話がちょっとうらやましくなったんだ」
こう言っておけば、大丈夫だろう。これ以上、不機嫌な顔の理由を詮索されることはない。案の定、父は納得したように呟いた。
「そういうことか」
苦笑いの顔に、仕方のない息子だという表情が浮かんでいる。
「悪いが、サルバド行きは無理だな」
「わかってるよ」
エルダリオンも本気で行きたいと思っているわけではない。以前は時折息が詰まりそうな感覚に襲われた城の生活だが、行動規制が緩くなったこともあり、今は気に入っている。国土を見てまわりたい気持ちはあるが、急ぐことはないと思っている。
もっとも、エルダリオンはそう思ってもいても、周囲はそうは見ていないようだ。五年近く帰らなかった前科は大きい。官吏の間では“出奔しかねない王太子”になってしまっているようだし、当分、他出は無理だろう。だから、父がひょこっと首を傾げながら言ったことに驚いた。
「ペラルギアじゃ不満か?」
「え?」
「船渠(ドック)の改修工事の申請が出ているのは知ってるな」
「ああ、うん……」
古い建造物は現場で通常の手入れをしていても、十数年に一度程度、大規模な改修工事が必要になる。船渠も例外ではない。
「今年は無理だが、このぐらいなら——」
と父はテーブルに指で数字を描いた。
「来年は予算を付けられそうだ。で、視察に人を遣ろうと思っていたところだ。どうする? 行ってみるか?」
「行っていいの?」
急がないとは思っていても、出かけられるとわかればうれしくなる。
「単独行は無理だぞ」
「わかってる」
城を出るのさえ、理由がいる立場だ。ペラルギアまで一人歩きさせろ——だなんて無理を言う気はない。そんな無理を押しとおすのは、
——父上ぐらいだ。
とは、言わないでおく。
「他に二、三名選ぶから……そうだな、半月後ぐらいに発つことになる。準備しておけ」
「わかった。ありがとう。父上」
エルダリオンは声を弾ませ、父の手を握った——が、脳裏に忠臣の顔が浮かんだ途端、肩が落ちた。
「あ……だけど、ファラミアは反対するんじゃ……エルボロンも」
「そっちはなんとかする」
頼りになるのかならないのか、微妙な調子で父が言った。なんとかすると言葉にした以上、なんとかしてくれるのだろうが、いったいどうやって、あの執政や大将を説得するのか……。興味が湧くより、心配になるのは、息子ゆえのことだろうか。
「ただし、都を出たのをこれ幸いと逃げ出すなよ」
父が釘を刺すように言う。どうやら、父もエルダリオンのことを“出奔しかねない”と危ぶんでいるようだ。他の者ならいざ知らず、父の誤解は解いておきたい。
「しないよ」
エルダリオンはきっぱり言った。
「本当か?」
「約束する」
よし、というように父が頷く。納得してもらえたようだ。
「そうと決まったら、資料を読んでおかないと——」
何事にも下調べは必要だ。エルダリオンは件(くだん)の船渠の改修申請書も読んでいない。父が机に目を遣った。
「脇机に一式揃ってる。あと、ファラミアにも揃えさせているから、明日訊いてみろ」
エルダリオンは父の視線を追って脇机を見た。書類の山が三つ見える。どの山がそれだろうと立って見に行くと、後ろから「エルダリオン」と呼ばれた。
「必ず帰ってこい」
青灰色の瞳がまっすぐにこちらを見ている。繰り返し念押され、いったいどれだけ心配性なのかと思ったが——、
「でないと、わたしがお前と飲むために押しかけていくぞ」
にやりと笑って続いた言葉に、エルダリオンは目をしばたたかせた。他の者が言ったなら冗談だと思うだろう。だが、エレスサールという人物は実行に移しかねない——というか、アルノールまで訪ねてきた過去がある。エルダリオンが姿をくらましたら、本当にやるだろう。
「そんなに脅さなくても、帰ってくるよ」
エルダリオンは父の隣に戻りながら笑った。
「出かけるのもいいけど、やっぱりここが一番だから。国王の執務室で飲むなんて、他ではできない」
「そうか?」
父が疑わしげな上目遣いでエルダリオンを見た。
「そう言う割に、街へ出かけることのほうが多くないか? ここに来るときはあまり機嫌も良くなさそうだ」
指摘はそのとおりで、よく見ていると思う一方、ちょっと拗ねた物言いは、
——可愛らしい。
こう思ってしまうあたり、やはり、自分の好みは母と一緒かと複雑な気分になった。それでも、
——憎むよりはマシか……。
どっちよりマシなんて、比較するものではないかもしれないが、前向きに考えたほうが精神衛生にいい。可愛いというのも好感情には違いなく、人に好意を抱くのは悪いことではないのだから——と己に言い聞かせ、エルダリオンは拗ねた人を元気づけるべく、ニッと笑った。
「仕方ないだろ。素直になれない年頃ってやつだよ」
父が目を丸くした。
「……お前、今頃、反抗期か?」
ぼそりと言った後、やはりどこかで育て方を間違えたのかとかなんとか……ぶつぶつ陰気に呟いている。
「反抗期じゃなくても、いろいろあるんだよ。たとえば——」
エルダリオンは父の腕をつかんだ。そのまま体重をかけて、押し倒す。
「素直に態度に表すと、こうしたくなるとかさ」
父の目が今まで見たことがないくらい見開かれた。さもありなん。いかに型破りなエレスサール王でも、まさか、息子に押し倒されるとは思ってもみなかっただろう。
そして、エルダリオンも気づいた。これまで父との距離の取り方を悩んでいたが、いざ押し倒してみると、これ以上何かしようという気が起きないことに。こうして、ふざけて迫るのは楽しいが、それだけだ。心配していたような邪な欲求は湧かない。
「——エルダリオン」
僅かに眉を顰め、父が呼んだ。
「重い」
「ああ、失礼」
エルダリオンは退がって、父を引き起こした。
「……驚いたな。お前、悪ふざけが過ぎるぞ」
「悪い。けど、父上がつまらないことで拗ねるから」
「だからってな……」
不満げに唇をゆがめた父だったが、それも一瞬のことで、小さく肩をすぼめると目を細めた。
「まあいい。嫌われてないとわかって安心した」
そう言って、くしゃくしゃとエルダリオンの頭をかきまわす。
「ちょ……こら、止めろって……」
父の手を払いのけようと、エルダリオンは防御の構えをした、が、それがまずかった。父の手がエルダリオンの手首を捕まえた。
「うわっ……!」
あっという間に上体が引き倒されていた。動きを封じるように、両腕の付け根を押さえられる。
「お返しだ」
父がにんまりと人の悪い笑みを浮かべている。
——お返しって……。
こんなことをやり返していてどうするんだと、エルダリオンは腹が立つより呆れた。
「あのさ……」
「なんだ?」
「息子を押し倒して楽しい?」
「お前こそ、実の父親を押し倒して楽しかったか?」
そう言われると返す言葉がない。エルダリオンは正直に答えた。
「……んー、ちょっと」
「ま、そんなところだ」
笑った父の顔は“ちょっと”どころか、“かなり”楽しそうだ。まあ、不意打ちを食らわせた相手から、目論見どおりの反応があれば痛快には違いない。
「わかったからさ、放してくれない?」
“お返し”はもう済んだはずだ。だが、父はエルダリオンの腕を押さえたままである。これでは動けない。技を解くことはできなくもないが、実行したら父に怪我をさせてしまう。だから頼んだのだが、父はしかつめらしい顔で首を振った。
「親を押し倒した罰だ。もうしばらくそのままでいろ」
そう言うと、あろうことか、父はその場で寝転がった。つまり、エルダリオンの胸元に……。
「あの、父上……」
「枕が文句を言うな」
「いや、だけど……。せめて膝にしてくれないかな」
「じゃ、そうしろ」
——そうしろって……。
茫然としていると、やがて規則的な寝息が聞こえてきた。本当に眠ってしまったようだ。エルダリオンはそろそろと上体を起こし、慎重に父の頭を膝に移動させた。長椅子の背にかけてあったマントを取り、眠っている人を覆った。
——これも息子の特権と言うべきか。
酔っぱらいが絡むのと大差ないことをされても、困るより先に可愛い人だと思うあたり、我ながら問題だと思う。けれど、大丈夫だ。きっと、“可愛い人”のまま、それ以上にはならない。なぜか、そう確信した。
膝の上から、引き続き安らかな寝息が聞こえる。エルダリオンはその人のこめかみに唇を落とし、一人、杯を空けた。
END