静焔[6]
ジジ……と、蝋の焦げる音がした。黄昏時に灯された燭がまだ燃えている。その灯火が、部屋が完全な漆黒の闇に落ちるのを防いでいた。寝台で蠢く淫靡な行いの影を壁に描きながら——。
腹部にまわった手が、うつ伏せていたアラゴルンの腰を引き上げた。背から腰に他者の肌がぴたりと密着する。熱い塊を体内に呑み込まされたアラゴルンは、がくがくと身を震わせ、引き攣るような声を上げた。
直後に息が詰まり噎せ返ったが、それもまたまずかった。熱を受け入れた身には、それすら刺激になった。総毛立つような感触に捕らわれ、堪らなくなって思わず身を捩る。その動作がまた新たな甘い刺激を生み出し、アラゴルンの背を反らした。
相手はまだ大きく動いてはいない。馴染ませるように緩慢な動きに終始している。腰にまわされた手も、今はもう拘束していなかった。宥めるように肌を撫でている。背やうなじには啄むような口づけが幾度も落とされた。これも同じ意図なのだろう。
けれど、宥めようとするそれらの行為でさえ、今のアラゴルンには感覚を煽る刺激だった。身体は小刻みに震え、荒い呼吸はなかなかおさまらない。覚悟はしていたものの、久しぶりの感覚に身体が対処できないでいるようだ。
「陛下……」
耳朶に熱い吐息がかかり、肩ごしにうっとりとした声が聞こえた。アラゴルンは荒い息を吐きながら、僅かに首を動かして背後を振り返った。水色の眼差しとぶつかる。それがすっと細められたかと思うと、彼の唇がアラゴルンの口許に触れた。
なんだって、この若者は自分のような年寄りに欲情するのだろう。はじめは暴力的な欲求が、こういう形になって現れたのかと思った。しかし——、
それにしては扱いが丁寧だ。
いや、丁寧と表現するのはおかしいかもしれないが、少なくとも乱暴ではない。その疑問を本人に質そうとした途端、がくりと身を揺すられた。
「あっ……!」
不意を衝かれ、自分でも驚くような甲高い声を上げていた。そのまま連続して揺さぶられる。
「あ、ああ……あああ……」
律動に応じるように喉から声が迸った。ぐいと腰が引かれ、より深みを探られる。幾度か襞が押し上げられた。その度に身を蕩かすような感覚が腰から末端へと広がり、四肢を痙攣させた。絶え間ない刺激に息苦しくなる。
けれど、それははじまりに過ぎなかった。腰の奥で蠢く熱塊は丹念に襞を探り、とうとうある箇所を突いた。途端——、
「はっ!」
まぶたの裏に閃光が走り、意思とは無関係に身体が跳ねた。ぐっと胸が圧迫されたような感覚に陥り、息が詰まる。口をぱくぱくさせていると、再度、同じ一点を突かれた。
「……ぐっ」
喉から押し潰されたような声が漏れ、その代わりのように肺に空気が入った。暗い閨のはずなのに、視野の中でパシ、パシッと爆ぜるような光が点滅した。今、自分がどうなっているのか、それすら定かでない状態。確かなのは息が吸えたことだった。
喘いでいる最中にも、拍子を刻むように快感を湧き上がらせる刺激が送り込まれてきた。それは快楽の波となって、アラゴルンを愉悦の沖へ押し流す。
「は、ん……あ……あ、あああ……」
喉が仰け反って漏れた声は他者のもののように遠くに聞こえた。それとも、本当に自分の声ではなかったのか……。思考は悦楽の酔いに麻痺してしまい、もう働かない。酒精より遥かに強く甘い毒は確実に身体の熱を上げ、アラゴルンを頂点へと導いていく。陰鬱なはずの夜は、思考を蕩かすほど甘美な悦びの夜になっていた。
「…………!」
えも言われぬ感覚に身体を貫かれ、目の裏が真っ白に染まった。全身がピンと張り詰める。その後すぐに、アラゴルンは高い場所から落下していくような……いや、逆に高い場所へ押し上げられるような、矛盾した気分を味わった。それは恐怖ではなく、どちらかと言えば爽快感だった。
落ちたのか、押し上げられたのか……、何もかもが夢のように朦朧として判然としない。ただ、自分を抱き止めるやさしい腕の感触だけは現実的で、それに安心してアラゴルンは目を閉じた。